緊急地震速報にまつわるエトセトラ

先日(8月1日)、首都圏一帯で震度7という強烈な地震が発生するという世紀末感のある緊急地震速報が流れ、ネット上が騒然とする一幕がありました。この速報は15秒後にはキャンセルされ、実際に地震は発生しませんでした。緊急地震速報にはいくつかの誤解があって、これにともなう混乱もあるようなので、軽く緊急地震速報についてまとめておきます。

なぜか直近で受信した緊急地震速報が台湾でのものでした
なぜか直近で受信した緊急地震速報が台湾でのものでした

1日の緊急地震速報は、千葉県にある気象庁の地震計が雷によるノイズを観測したことで異常値を示し、それをもとに緊急地震速報が発報されたとされています。緊急地震速報は、地震計が計測した地震波をもとに震源、予想震度などが推計され、それを配信するための仕組みです。

この緊急地震速報には2種類あり、「緊急地震速報(予報)」と「緊急地震速報(警報)」に分かれます(さらに巨大な地震の場合の「特別警報」もありますが、ここでは警報に含めます)。「警報」の方は、携帯電話向けの緊急地震速報やテレビの速報などで使われており、2カ所以上の地震計が観測した地震波をもとに、「最大震度5弱以上の揺れ」が発生されると推計された場合に発報されます。

携帯電話向けの緊急地震速報では、端末の位置をもとに、「その端末が存在するエリアで震度5弱以上の地震が発生する可能性がある」場合に配信されます(警報自体には震度4の予想地域も含まれています)。「緊急地震速報が携帯で鳴らなかった」のは、「そのエリアで強い揺れが予測されなかった」からで、ネット上で緊急地震速報が鳴った、鳴らなかったの違いが出るのは(通常は)このためです。キャリアや端末の違いでは(通常は)ありません。

ちなみに、MVNOのスマートフォンを使っている場合でも、端末が緊急地震速報に対応していて、MVNOのSIMが刺さっていれば緊急地震速報が届きます。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのいずれも、SIMの種類などは問わず、自社回線向けに緊急地震速報を配信しているため、MVNOでも無関係に速報が届きます。

さて、この緊急地震速報(警報)は、いわば一般向けのサービスです。一定の精度をもとに、一定の被害が発生すると見込まれる場合に配信されています。通常の生活では、震度3~4ぐらいでは(日本人は)ビクともしません。「震度5弱以上になると顕著な被害が生じ始めるため、事前に身構える必要があるため」と気象庁も基準を示しており、一般的にはこの警報が利用されています(精度とか誤報の問題はまた別の話)。

これに対する緊急地震速報(予報)は、一般向けのサービスではありません。「高度利用者向け」とされていますが、端的にいうと「プロ向け」と表現するといいでしょう。基準としては、「地震計が1つでも一定の地震波を観測し、マグニチュードが3.5以上、または最大予測震度が3以上である場合」に発報されます。とにかく「速く」が特徴で、観測してすぐに速報を出し、その後も数回にわたって発表され、その間に精度を高くする、という方法をとっています。

つまり、1回目の速報は「精度よりも速度」を重視しています。こうした情報が必要なのは特定の分野です。例えば鉄道は、地震で停止せずに脱線などの事故を起こすより、とにかく停めた方が安全です。誤報でもなんでも、とにかく速く地震を検知して安全策を講じる必要がある分野は、実際はそう多くはありません。ゆえに、「高度利用者(プロ)向け」なのです。

8月1日の緊急地震速報(予報)では、最終的に「キャンセル報」が出されました。地震の予測を取り下げる、というものです。頻繁にあるわけではありませんが、過去にはキャンセル報が出ずに全く地震が発生しなかったという例もあります。「警報」では、2008年までさかのぼってもキャンセル報はなく、地震が発生しなかったということもありません。

この「特定の分野向けに使われる」予報が今回、ネット上で話題になったのは、スマホ向けアプリの緊急地震速報がこの「予報」をベースに情報配信をしていたためです。これを受信したことによって、首都圏全体が震度7の地震に襲われるという予報がネット上を駆け巡ったわけです。

この予報は、8月1日17時09分3.5秒に地震波を検知し、17時09分4.5秒に第1報が出されています。その後、6.8秒、14.6秒に第2、第3報が発表され、第1報の15秒後となる17時09分19.0秒にキャンセル報が出ました。

さて、問題はこのキャンセル報がどう扱われたか、です。緊急地震速報は別に「Webサイトに掲載された情報を自力で取得する」ようなものではなく、気象庁から特定のフォーマットで配信されるものを解析して表示します。今回のキャンセル報も、もちろん特定フォーマットで配信されており、アプリなどで「キャンセルされました」といった表示がされていれば、これほどの話題にはならなかったかもしれません。ビルの館内放送などでは、そうしたキャンセルの放送が流れたというSNS上での報告も見かけました。

一部では、「気象庁のサイトでキャンセル報であることが確認しづらい」という人も見かけましたが、そもそも使い方が間違っていて、サイトで情報を確認する類のものではありません(サイトにも掲載が10~30分ほどかかる、と書かれています)。キャンセル報を気象庁が発報しているため、それを解析しなかったアプリなどに問題があったのです。

そもそも、一般ユーザー向けのアプリで予報を使う必要があるのか、といった疑問もありますが、それを置いておいても、キャンセル報の扱いを怠っていたアプリ側の問題はあるでしょう。ほかにもっと対応していない情報があるのではと疑問も持ってしまいます。気象庁の「緊急地震速報を適切に利用するために必要な 受信端末の機能及び配信能力に関する ガイドライン」では、キャンセル報の扱いは「推奨」となっていますが、今後の対応は必要となりそうです。

緊急地震速報の配信では、震度や主要動到達時刻を予想するために気象庁長官の許可が必要になります。これが地震動予報業務許可事業者で、これらの事業者が集まった緊急地震速報利用者協議会では、今回の件で意見交換会を開催するようです。

緊急地震速報は有効な取り組みであり、適切な情報が適切に配信されることを期待します。